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漢字検索の新しい方式
−果敢で貴重なアイディア−
紀田順一郎
図書新聞(97.01.25)

高田任康『漢字コードブック』の意義
従来の検索法の欠を補う

 漢字検索(コード入力)の新しい方式が開発された。「漢ぺき君」と称するこの方式は、たとえば「栂」を電話で伝える場合に「木片に母」というように、漢字を分解して構成要素読めばよい。そのさい頭文字だけ「きは」と並べる。「愕」なら「りっしんべん+くち+くち」で「りくく」とする。最初の三個だけ読んで、あとを省略するのも合理的だ。

 ただし、もともと漢字には音訓両読みという面倒な性格があり、いくら分解してもそれはつきまとってくるので、いくつかの約束ごとを設けている。たとえば兄、赤、亜、雨、罔などはすべて「あ」と読む。約六十個の文字は、「川」は「かわ」、「寸」は「すん」というようにまとめ読みをする。「飛」「須」「素」のように分解しにくい漢字については、その漢字自体の読みの頭文字を用いる。

 そのほかいくつかの約束ごとがあるが、すぐれているのは読めないときには「ん」と読むようにしていることだ。「柩」を「きへん+?+ひさし」というように、はこがまえが読めないときは「きんひ」とすれば検索できる。この場合、「きはひ」と読んでも大丈夫なように重出している点はアイディアといえよう。「个」「尸」「勹」のように、まったく読めない場合は画数でも行けるようになっている。至れりつくせりである。

 もっとも、このように原則は理解していても、慣れないうちはかなり戸惑うこともたしかだ。「図書新聞」とコード入力しようとしたが、「書」などは「しょ+かく+ひ」だから「しかひ」だと気がつくまでに、だいぶ時間を費してしまった。しかも、もう一つ「ふじひ」という読みがあるらしい。こうなると判じものである。

 日本語は、その主要な要素である漢字一つとっても、記号性よりは経験で読む言語である。漢字の構成要素といっても、とくに専門的トレーニングを受けていない者は分解の仕方や読みにバラつきが出るのは致し方ない。本書もその点に思いをいたし、苦心を払っていることはわかるのだが、まだまだ十分ではないように思われる。

 しかし、そうはいっても、このアイディアは貴重だ。同じ版元から出ている『直感!ワープロ漢字辞典』(増田忠編)は、漢字の弊害たる同音異義の多さを克服しきっていない。その点、本書はあの手この手で絞り込みを行おうとしているのがうれしい。

 本書は従来の部首検索やから見れば、それぞれの欠を補う方式といえる。前者は伝統があるといっても、部首の知識が十分でない者には辛いし、何よりも画数を数える手間が秒を争うインターネット時代にそぐわない。学問云々というが、もともと部首に分解するアイディア自体、きわめて便宜的で、学問そのものとは関係がない。四角號碼はより能率的だが、十種の筆形を記憶して数字に並べ直すことが、中高生ならともかく、社会人になってからの暗記力では厄介だ。漢字を学者や研究者でない、多忙で能率本位のビジネスマンが使用する場合、問題があまりにも多すぎる。

 私は部首索引や四角號碼索引を否定するのではない。それに関する知識が豊富ならば、難字の入力たりとも怖れることはないが、現実には教育の場で検索法などほとんど論じられていないのが現状ではあるまいか。漢字文化圏に属し、漢字に頼りきっている国家なら、その漢字検索方法ぐらい徹底して叩き込むこと。それをせずに戦後半世紀を過ぎてしまったところに、本書のような果敢なアイディアが生まれる必然性があるといえよう。いま産業界に「インターネットに日本語(漢字)は重すぎる」という意見が出ているが、無策でいればそうなるのは当然なのであって、例えば本書のような検索手段についてもっと多方面で論じる必要があろう。

(評論家)



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